2015年8月18日火曜日

Day 9 磨いてこその人生

 甲子園を見ていて刺激を受けたトニーとフトニーは、バッティングセンターに行くことにした。
 フトニーは運転席に辿り着く前に、危うく落ちていた野球ボールに足を滑らせて電柱に頭を打つところだった。そんなフトニーを見てトニーは、「久しぶりのバッティングセンターだからって、ちょっとテンション上げ過ぎじゃない」と、飛んできたバットをかわして車に乗り込んだ。
「んだなぁ、気をつけッペや~↑」と語尾を上げて、かぶっていた巨人の帽子をスッと取って、板東英二の燃えよドラゴンズ!をかけながら、ヤクルトを飲んでアクセルをふかした。

「カキーン」と、さっき飲んだヤクルトに当たったフトニーが慌ててコンビニのトイレに駆け込み、用を足した。そして、お礼代わりに、ロッテコアラのマーチを買って車に戻った。フトニーが車内のトニーに、「いやぁ~、早くもヒットしたわ」とお腹を触りながら言って、コアラのマーチを見せた。するとトニーは、去年行ったオーストラリア旅行で、木からコアラが落ちたのを思い出して、テンションが下がった。それを気遣ってフトニーが、「これやるよ」と言って、フトニーに1円あげた。それが、希少価値のあるという平成13年物だったせいか、フトニーのテンションが337厘戻った。


 いよいよバッティングセンターに着くと、中が真っ暗で何も見えない。入口付近には、一枚の張り紙が張ってあった。そこには、「アベノミクスのトリクルダウンの恩恵も受け取ることができず、無念ですが、お客様の多大なご支援を受けて1年半続いた当センターを閉鎖せざるを得なくなりました」と書かれていた。諦めて、トニーとフトニーは、家に帰ることにした。


 家に帰ると、トニーは両親に事情をすべて説明した。フトニーが運転席に辿り着く前に、危うく落ちていた野球ボールに足を滑らせて電柱に頭を打ちそうになったこと、飛んできたバットをかわして車に乗り込んだこと、フトニーがヤクルトに当たったこと、コアラのマーチを見て、去年行ったオーストラリア旅行で、木からコアラが落ちたのを思い出して、テンションが下がった一方で、フトニーからもらったプレミア付きの1円をもらって嬉しかったこと、バッティングセンターが閉鎖されていたこと、そして、行きに寄ったコンビニに帰りも寄ると、ものすごい大きな声で、「お願いします!、お願いします!」と大きな声で店長に頭を下げていた、バッティングセンターのオーナーがいたこと。
 そんなトニーの話しを聞いていた父さんが、トニーに言った、「野球はゲームセットまで何が起きるかわからない。人生も同じだ」

 その日トニーは、その父の言葉を頭の中で反芻させながら、夜遅くまで、昔から使っていたグローブのCDを丁寧に磨いた。

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