2015年8月4日火曜日

Day 3 走り屋の秘密

 昼頃に目を覚まし、ブランチを食べに外へ出かけたトニーは、通りすがりの若者数人が、トニーの方を見てこそこそ、クスクス、糞しながら笑って指を差しているのに気が付いた。トニーは一応社会の窓を確認した。窓はしっかりとしまっていたが、ポケットから黄色い大きな財布が4分の3ほど飛び出ていることに気付いた。フトニーからもらった、幸運を呼び込むと言われているらしい、大きめの細長い財布だ。そう言えば、この財布を使い始めて以来、誰かから毎日監視されている気がしてならない。
 と、まさにその時、トニーの携帯が鳴った。音量は普通に設定してあったが、超強に設定してあったバイブ機能がブルブルとポケットで暴れだし、トニーの社会の窓が僅かに開いた。
「まさかこれも、この財布のせいか…あるいは…バイブ機能のせいか…」
あれこれ頭の中で駆け巡りながら、トニーの横を駅伝の第1集団が駆け巡る。その先頭から少し離れたランナーが、先頭を目指して激走しながら捨てた紙コップが、慣性の法則でトニーのポケットに飛んできた。そのおかげで、トニーの携帯に水がバチャッとかかった。だが、バイブ機能の超強設定のおかげで、携帯は水をブルブルっ!!と跳ね返し、事なきを得てほっとしていると、再び携帯が鳴り響く。番号は非通知だ。だが、携帯画面には、フトニーの顔が映っている。
「おい、フトニー?」
「はぁっ!? なんで分かった、トニー?」
「男の直感だよ、フトニー」
「お前まさか、黄色い財布の力で勘が研ぎ澄まされてきたんじゃ…」
「フフっ、フトニー。そのまさか、あるいは…」
「あるいはって、お前…あまり調子に乗っていると、その神通力が…」
と、フトニーが言うと、
「うわぁああああああああ!!」
「おい、トニー!! どうした!!? だいじょうぶかぁ~!!??」と、フトニーは最後の部分に志村けんを織り交ぜながらトニーに向かって叫んだ。
「第2、第2集団の…」とトニーは言い残して、携帯が切れた。


 心配になって、監視カメラの記録からトニーの居場所を突き止めたフトニーは、法定違反かもしれない、時速150キロで飛ばしてトニーの場所へと向かった。
「いやぁ、まじで人生油断できないな。まさか第2集団に踏まれるとはな」
「だから言ったろ。4分の3も黄色い財布を見せるからだよん」と、フトニーはトニーを戒めるように、腕まくりをして、第3集団に踏まれた跡を見せた。

 トニーとフトニーはその後、地元の駅で言い伝えられる、駅弁をブランチ用に購入。駅弁を持って近くの公園に行き、ベンチに座って食べた。トニーは運悪く食あたりにでも遭ったのか、急に腹が痛くなり、タクシーを拾って、車で約3時間離れたところにある病院に向かった。

 車内で寝ていたせいか、意外にだいぶ早く病院に着くと、院内が……煌々(こうこう)と明るく照らされていた。しかも、理由はよく分からないが、多くの患者が目を抑えている。それを見たトニーも明るい表情で、タクシー運転手のフトニーに言った、「腹、治ってる」。


「金はいらねぇ~よ」と、自宅まで送ってくれたタクシー運転手のフトニーは言った。家に帰ると、トニーは両親に事情をすべて説明した。黄色い財布、通りすがりの若者、携帯の超強バイブ機能の副作用、駅伝集団の走り、駅弁ブランチ、食あたり。煌々と明るい病院。そして、病院に着いた時には、腹痛が既に治っていたこと。両親はそんなトニーの一日の話を、駅伝の第1集団の誰かが捨てた紙コップがトニーに当たったシーンをビデオで見ながら聞いていた。トニーは自分の部屋に戻り、天上の監視カメラに手を合わせて寝た。そして、眠りに落ちる前に、タクシー運転手のフトニーが残した言葉が、トニーの頭の中でこだました、
「さすが、実業団仕様のシートベルトだよな」

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