2015年8月3日月曜日

Day 2 見えない炎

 トニーが昼頃に目を覚まし、居間に向かうと、久しぶりに48歳のいとこのフトニーがいた。
「よっ、トニー? 元気してたか?」と、バスケのスリーポイントシュートのマネをしながら、トニーに向かってスイカを投げてきた。トニーはそれをヘディングでフトニーに返して言った、
「フトニー、またリバウンド?」
「トニーはいいよな。どれだけ食っても、100キロいかないもんな~」
フトニーは101キロの巨体を揺らしながら、うまく決まらなかったスリーポイントシュートのリバウンドを待ち構えるマネをしながら、スイカをガブリ。その様子を、トニーの母さんがビデオで撮影し、ネットにアップしようと目論んでいる。トニーの両親は、時間的にも金銭的にも余裕がありすぎるせいか、年の割に、若者みたいなことをやっている。トニーの母さんは、これまでに100動画をアップし、合計視聴回数はすでに100を超えている。「このバスケ動画で、また儲かってしまうな、ユーチューバーさん」。「そうですね、宝くじーさん」。
 お互いにキマってドヤ顔の二人は、フトニーが懸賞で当てて、今朝くれたパソコンを使って早速ネットにアップした。アップをしてしまえば、もうこっちのものだと言わんばかりに、アップをしてからウィンドウズの更新を無視してビシッと途中でシャットダウンした。トニーの父さんが、「母さん、これではビル・ゲイツも手出しできないわね」とオカマ口調で言うと、トニーの母さんが一言言い放った、「だっふんだ」。


 トニーとフトニーは、フトニーが運転する車で電気屋に向かった。ちなみにこの車も、フトニーが懸賞で当てたものだ。トニー家が宝くじ一家だとすれば、フトニー家は、懸賞くじ一家だ。フトニーも、とにーかくまともに働いたことがない。フトニーの両親も懸賞で何不自由ない生活を送っている。それを聞いた登山家の某芸能人が、あと5歩でエベレスト登頂というところから、慌てて下山してその秘密を聞きにきたら面白いぐらいだ。


「さあ、着いたぞ、トニー」
「おぉおおおおおお貞治、これがフトニー御用達のフィギュアショップか」
 フトニーは気分が良かったのか、電気屋に向かう途中の森林の中を暴走。そこを抜けて、子供の頃からフトニーが秘密と言って隠し続けていたフィギュアショップに連れて行ってくれた。さすがに体中に電気が走った。
 フトニーと車から降りてショップに向かうと、店内が真っ暗。そして、店の前には一枚の張り紙が貼ってあった、「監視カメラ、動作中」。
 諦めて車に戻り帰ろうとすると、フトニーの車が動かない。すると、ショップの近くにいた40代後半から70代前半ぐらいのおばさんがトニーに話しかけてきた、
「あなた、アベノミクスの恩恵は受けたの?」
「いえ、まだですけど、何か?」
「おばさんは今、38歳なんだけど…」
「だけど、何ですか?」
「い、いや、何でもないの」
そう言いながら、半笑いでおばさんはトニーに背を向けた。続きが気になったトニーは、「おばさん、待ってください! どうしたんですか?」と話しかけると、おばさんは我慢できなさそうに、
「あのねぇ~、きっとねぇ~、今ねぇ~…ここの監視カメラ動作してないよ」と、前半に子どもの頃の貴乃花を織り交ぜながら、貴重な情報を放り込んできた。おばさんに思いっきり頭を下げてお礼をした勢いで、トニーは腰がやられた。トニーとフトニーは、ちょうど止まっていたタクシーを拾って帰宅した。


 帰宅後、トニーは両親に事情をすべて説明した。森林の奥を抜け出て、フトニー御用達のフィギュアショップに行ったこと。店内が真っ暗だったこと、子どもの頃の貴乃花をぶっこんできた38歳のおばさんのこと、礼儀を尽くして腰がやられたこと、そして、競争を勝ち抜くために付加価値を高めているというタクシー会社の磁力シートベルトで腰が治ったこと。それを聞いた父さんはトニーに向かって、「監視カメラはいいよな」と、志村けんのいいよなおじさんを上回るぐらいの表情と、母ちゃん手製のいいよなおじさんの衣装セットを自慢気に見せながら言った。
 この日フトニーはトニーの部屋に泊まろうとしたが、フトニーの父さんから緊急の連絡メールがあって、帰宅した。フトニーが帰る前に、トニーはそのメールを見せてもらって、手が震えた。

懸賞に

命を懸けて

腱鞘炎

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