2015年8月1日土曜日

Day 1 トリクルダウン

 真冬のある日の午後、大学を卒業後、8年間ニートをしていたトニーは、大学を卒業後、9年間ニートをしていたトニーの父親から、「あと一年だな」、と半笑いで言われて苦笑い。その会話を聞いていたトニーの母親が、「あなた、甘いわね、相変わらず。あと2年よ」と、半笑いと大笑いの間の75分程度で笑いながら父親に言った。さすが大学卒業後、10年間ニートをしていた母親の肝っ玉は座っている。
 そんなモノホンのエリートニート、いや、サラブレットニートのトニーは、両親と同じような生き方は、ちっとまずいんじゃ~ないかい?と、46歳の誕生日にすこ~しだけ思い始めていた。いや、実際には、何も考えていなかった。だって、両親の働く姿を見たことがなかった。恐らく、常にアイマスクをしていたせいもあるのだろう。だが、とにかく両親のくじ運が半端ない。サマージャンボ宝くじと年末ジャンボ宝くじの1等を何回も当てたらしい。一方で、ロト6やサッカーくじなど、他のくじには一切手を出さない。トニーはその理由を父に、行儀よく、キン肉マンの仮面を脱いでから聞いてみると、「冬に夏の準備をして、夏に冬の準備をする。何事も準備が必要だろ?」と、父親は神妙な面持ちで、テリーマンの仮面を脱いで答えた。母親は、石けんで額の肉という文字を消しながら、鏡の中に映っていたテレビ番組を見て言った、「最近テレビ映りが悪くなったかもね」。それを聞いて心配になったトニーは、新しいテレビを探しに慌てて地元の電気屋に向かった。


「あっぶねぇー!!」 
 雪道でスリップしてハンドル操作を誤った車をかろうじて避けると、「あれっ? トニーじゃね?」と運転手がトニーに声をかけた。顔を見ると、小中高大学と一度も一緒になったことはなかったが、富裕層の子ども向けセミナーで昨年出会ったクダリーだった。親が元天下り官僚らしく、セミナー参加者からクダリーというニックネームを付けられた。他にも天下りの子どもは何人かいたが、クダリーの父さんの天下り具合が天下統一レベルだったこともあり、真っ先にクダリーという名を鷲掴みにした男(やつ)だ。
「トニー、こんなところで何してんの?」
「何してんのって…クダリー、俺今、お前さんにひかれそうじゃなかった?」
「下りの速度が思った以上でさ、メンゴ」
「じゃ~、しょうがないよな w
 ラッキーなことに、クダリーが電気屋まで乗せて行ってくれるという。「こういうのを渡りに船というのだろう。人間生きていればいいこともあるもんだ」とトニーは思った。


 電気屋に着くまでの途中、クダリーは結局人をひいてしまった。おかげで電気屋まで連れて行ってもらうことはできなかったが、途中で降りて電気屋に着く前に、100円を拾った。しかも、150円から1000円程度の希少価値があるという、昭和39年の100円硬貨だった。「サンキュー!」と心の中で叫んではしゃいでいると、その弾みでその100円硬貨がどこかに落ちてしまった。「だから希少価値があるんだなぁ~」と納得したトニーは、いよいよ電気屋の入口へと向かった。
 

 電気屋の前に来ると、店内が真っ暗。入口には張り紙が貼ってあった、「監視カメラ動作中」。近くにいた40代後半から70代前半ぐらいのおじさんがトニーに話しかけてきた、
「君、アベノミクスの恩恵は受けたかい?」
「いえ、まだですけど、何か?」
「おじさんは今、38歳なんだけど…」
「だけど、何ですか?」
「い、いや、何でもない」
そう言いながら、半笑いでおじさんはトニーに背を向けた。続きが気になったトニーは、「おじさん、待ってください! どうしたんですか?」と話しかけると、おじさんは我慢できなさそうに、
「あのねぇ~、きっとねぇ~、今ねぇ~…ここの監視カメラ動作してないよ」と、前半に子どもの頃の貴乃花を織り交ぜながら、貴重な情報を放り込んできた。おじさんに思いっきり頭を下げてお礼をした勢いで、トニーは腰がやられた。トニーはこの日、結局テレビの購入を諦めて、電気屋の前に列をなして止まっていたタクシーを拾って帰宅した。

 帰宅後、トニーは両親に事情をすべて説明した。クダリーに会ったこと、クダリーにひかれそうになったこと、そしてクダリーが結局人をひいたこと、昭和39年の100円硬貨の希少価値の意味を知ったこと、電気屋が真っ暗だったこと、子どもの頃の貴乃花をぶっこんできた38歳のおじさんのこと、礼儀を尽くして腰がやられたこと、そして、競争を勝ち抜くために付加価値を高めているというタクシー会社の磁力シートベルトで腰が治ったこと。それを聞いた父親はトニーに向かって、「じゃあ、テレビを買うなら、ネットでいいジャマイカ?」と真顔で言ったので、トニーは、「うんだ、うんだ。そうすっぺ、おどさん」と、クダリーの父さんのマネをしながらこたえた。トニーがToriKuruという外国製のパソコンを起動させると、パソコンが突然ダウンした。この日トニーは、ついに自分もアベノミクスの恩恵を受けたことに気付き、天上の監視カメラを見ながらネタ。

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