2015年9月22日火曜日

Day 22 リラクゼーションサロンの盗リートメント

 トニーは今日フトニーと、新しく出来たという、森の中のリラクゼーションサロンに行くことにした。
 いつものようにフトニーがトニーをトニーの家まで車で迎えに来た。車の中から、目をしばしばさせているフトニーがトニーに手を振った。トニーがフトニーの車をよく見ると、車のナンバープレートの横の部分が、少し凹んでいる気がする。トニーが助手席に座る時にフトニーに、「あそこ、ちょっとへっこんでいる気がするんだけど、大丈夫か?」と聞くと、フトニーが、「ちょっとこれを聞いてくれ」と言って、ちょうどいい温度のとろけたシチューが頭の上からゆっくりと垂れて来るかのような、ゆる~いヒーリング系のリラクゼーション用音楽をかけた。「これを聞きながら運転してたんだけど、ちょっとウトウトしちゃって」とフトニーが言った。それを聞いてトニーが、「それって、交通事故寸前だったんじゃないか?」とフトニーに言うと、フトニーが、「いやぁ~、危なかったよ、正直。でも運良く助かったよ」と応えた。トニーが「それで?」と相槌を打つと、フトニーが、「音楽が気持ち良すぎてマジでウトウトしたんだけど、ちょうど対向車が大音量の音楽をかけていて目が覚めたんだよ」と言った。「ロックミュージックとか、助かるよな、眠い時には」とトニーが言うと、フトニーが、「いや、大音量のヒーリング音楽だったんだ」と言った。


 眠くならないように、車内で2時間ぐらいずっと大音量でヒーリング音楽を聞きながら、目的のリラクゼーションサロンに着いた。「鬱陶しいほどウトウトサロン」。ここに違いないと思いトニーとフトニーは車から降りて入店した。
 店内に入ると、聞こえるか聞こえない程度の音量で、フトニーの車で大音量でかけていたヒーリング音楽が優しく流れていた。そのせいなのか、受付に進むと、受付係の若いおねぇ~さんが受付台に手を伏せながらぐっすりと寝ていた。「すいません」とトニーが声をかけると、「あっ、すいません。私ついウトウトしてしまって」と言って、受付係のおねぇ~さんが目を覚ました。「今から従業員を起こしますんで、もう少しここでお待ちください」と言って、奥の部屋でフカフカの布団の中で寝ていた従業員を起こしに行った。従業員が起きて来るまで、トニーとフトニーは待合室で待っていた。
 しばらくして、先ほどのおねぇ~さんが「トニーさん、フトニーさん?」と、肩をポンポンと叩いて起こした。そして、「終わりましたよ~」と、眠そうな目をこするように言ってきた。窓の外を見ると、既に日は落ちていた。トニーがおねぇ~さんに、「あれっ、俺達まだリラクゼーションサービスを受けていないはずですけど」と言うと、おねぇ~さんが二人に、「いえいえ、お二人とも、もう2時間以上も目を閉じてリラックスされていましたよ~」と返答した。これで一人当たり1万円。「盗られたな」とトニーは言ったが、フトニーは「確かにスッキリしたからいいじゃん」と応えた。確かに頭がスッキリとした二人は、家に帰ることにした。


 自宅に帰ると、トニーは両親にすべて説明した。リラクゼーションサロンに行ったこと、サロン内の待合室で、フトニーと二人で2時間以上リラクゼーションサービスを受けたこと、そして、帰りの車内ではフトニーが居眠り運転をしないように爆風スランプの『runner』をかけて運転し、スピード違反で取り締まりを受けたことなど。
 それを聞いていたトニーの父さんがトニーに言った、「今テレビを見てたんだが、そのサロン、従業員がぐっすりと寝ていて、強盗に入られてたった今倒産したらしいぞ」。

2015年9月20日日曜日

Day 21 悪質な併殺崩しのスライディングを上手く避ける最新技術と新ルール?-何となく、失敗の匂いがする

 トニーは今日フトニーと、暇つぶしに野球観戦に行くことにした。メジャーリーガーと日本選抜が、極秘で試合を行うという情報をフトニーが手にしたからだ。話によると、ダブルプレーでの併殺を阻止する際に選手がスライディングをして、選手の大怪我につながるのを防ぐための最新技術と新ルールを試すらしい。


 フトニーがトニーを車で迎えに来た。フトニーはメジャーのあるチームのユニフォームらしきTシャツを着ていた。シャツの前面には、「ShineAnts(シャインアンツ」と書かれていた。背番号はドクロ ww (これはいくらなんでもダッセェー…)とトニーは思ったが、なんとか口に出さずに我慢した。我慢できずに言いそうになったが(正確に言えば「ダ」までは言ってしまったが)、その後なんとかくしゃみをしてごまかした。フトニーの帽子についていた、漫画のような馬糞についてはスルーした。
「じゃ、今日も行くぞ!」と気合の入った声でトニーを車内に呼び込んだ。トニーは乗車前に、「ThaiBaht(タイバーツ)」と書かれたユニフォームのシャツに着替えてから乗り込んだ。


 極秘の試合が行われる極秘の球場を探しまわること3時間。想定以上に時間がかかってしまった。球場のスコアボードを見ると、既に12回の表。ランナーは1塁。アメリカの攻撃で、日本が守っていた。外野はものすごい前進守備で、皆2塁ベースの方をチラチラ見ている。レフトだけはライン際を守っていたせいか、かなり遠くにいた。だが、はめていたグローブの外側には、双眼鏡らしきものが組み込まれていた。これも新型ベースボールテクノロジーなのかもしれない。
 球場には応援団などもおらず、マスコミも完全シャットアウト。球場は静寂に包まれて、カキーン、バシッ、ポリポリッ、バキッ!、ズドーン、くっせぇーなどの音しか聞こえない。
 トニーとフトニーがそれをこっそりとグーグルグラスをかけながら見ていると、両軍ベンチの監督やコーチ、さらにオーナーらしき人物らが、ざわざわとし始めた。二人は固唾を呑み、酎ハイを飲みながら見守っていると、打者がセカンドへゴロを打った。1塁ランナーが勢い良く二塁へ走りこむと、「おい、トニー! あれを見ろ!」とフトニーが言った。なんと、普通の二塁ベースの横に、もう一つのセカンドベースが地上から現れた。するとランナーは、そのもう一つのセカンドベースに向かって激しいスライディングをぶちかました。その時ショートは、もう一つのベースから一瞬煙が上がったせいか、口や鼻の周りを抑えながら、通常の二塁ベースを踏んで一塁へ送球しゲッツー。それを見てフトニーが、「なるほどな。これなら併殺殺しのスライディングで選手が怪我をすることもないし、走者も好きなだけ激しいスライディングをできるわけだな」と、固唾と酎ハイを混ぜて飲みながら言った。
 フトニーはグーグルグラスでデータを取りながら、その仕組を解読した。まず、スコアボードに注目。すると、打率、ホームラン数などの他に、「走塁危険率」という項目が新たに加えられていた。どうやら、この走塁危険率が高い走者が塁上に現れると、審判は気分次第で、リモコンの遠隔操作でもう一つのベースを出せるらしい。確かに審判の手を見ると、左手に福沢諭吉を握りしめていた一方で、右手にはリモコンを持っていた。このリモコンでベースを出したり隠したりして、スライディングの怪我を防ぎつつ、走者の激しいスライディング欲求も満たすという、画期的な仕組みだろう。この新しいシステムを見て安心したのか、フトニーの固唾は柔らかくなった。それを見てトニーも安心し、二人は帰ることにした。


 自宅に帰ると、トニーは両親にすべて説明した。メジャーと日本の極秘試験試合をフトニーと見に行ったこと、フトニーがコンビニのエロ本コーナーで興奮し、2時間も滞在したせいで、試合に着いたら既に12回の表だったこと、球場は静寂に包まれていたこと、二塁ベースに、スライディング専用のもう一つのベースが現れて、万事うまくいったことなど。
 それを聞いていたトニーの父さんがトニーに言った、「今CSの高い有料チャンネルで特集してたんだが、そのベースはまだ実戦では使えないらしいぞ」。トニーが「どうして?」と聞くと、トニーの父さんは言った、「そのもう一つのベースは、馬糞でしか作れないんだって」。

2015年9月17日木曜日

Day 20 人間万事塞翁が馬とは?-プライベートジェット物語からの考察

 トニーは今日フトニーと、フトニーの友達を迎えに空港へ行くことにした。その友達は、親の都合で10代の頃から海外に住んでいるという。久しぶりの帰国ということで、日本でフトニーならではのおもてなしをしたいとフトニーが意気込んでいた。

「バタバタバタバタバタバタ」と大きな音を立てて、先月墜落しかけたというプライベートジェットをトニーの家の庭に無理やり着陸させて、トニーを迎えに来た。「これ、ドア開いたままで操縦して大丈夫なのか??」とトニーが心配そうに言うと、「ドアを開けないと、機内が暑いからな!」と、大きくVサインと書かれた手のひらをトニーに向けて応えた。「じゃ、乗れよ! トニー!」と言われて、トニーは念のため木工用ボンドを持ってプライベートジェットに乗り込んだ。


 トニーのボンドを物ともせず、迎えに来た時よりもさらに開いたドアをグラングランさせながら、フトニーがプライベートジェットを30分ほど操縦し、空港に着いた。トニーがフトニーに、「プライベートジェットなのに、完全にノープライバシーだな、これ」と言うと、フトニーが「ジャンボジェット機に大きさでは負けるが、心はこっちの方がジャンボだ」と、鼻水をジャージャー垂らしながら言った。トニーが「フラフラしてるけど、やばいんじゃない?」と言ってフトニーのおでこに手を当てながら、フトニーに体温計を渡した。3分後、フトニーの体温が39℃。そのまま、プライベートジェットを置いて、タクシーで近くの病院に駆け込んだ。


「お薬3日分出しておきますから。安静にしておいてくださいね」と、自動音声案内で言われたフトニーは、待合室に戻った。
 待合室のテレビを見ると、緊急テロップが出てきた、「外国からプライベートジェット機と思われる小型飛行機が、ドアを全開にブランブランさせながら、急降下中」。高熱で少しフラフラ気味のフトニーは寒気を感じた。その寒気は高熱のせいなのか、画面に映っている、急降下中のプライベートジェット機から友達らしき人物が風に煽られて、操縦席から機内の外に吹き飛ばされているからなのかは分からなかった。
 フトニーは、ボンドでがっちりとくっついた物体のように、食い入るようにテレビを見ていた。すると、友達が強風で煽られながら急降下しながらも、奇跡的にドアがブランブランになってがら空きの、空港に放置してきたフトニーのプライベートジェット機にスポッと吸い込まれて無事だった様子が映し出された。それを見て安心したのか、フトニーの体温も36℃まで急降下し、1日分の薬を返して、多少の返金を受けて帰宅した。


 トニーは家に帰ると、今日の出来事を両親にすべて説明した。フトニーの友達をフトニーのプライベートジェットで迎えに行ったこと、木工用ボンドが効かなかったこと、フトニーが急に高熱を出し、病院に行ったこと、フトニーの友達もプライベートジェット機でやって来たが、全開のドアから飛び出して急降下し、死ぬかと思ったが、フトニーのプライベートジェット機の全開になったドアに助けられたことなど。
 その話をした後、トニーの父さんがトニーに言った、「目には目を、ドア全開プライベートジェット機にはドア全開プライベートジェット機を、という諺を覚えておきなさい」。

 トニーは寝る前に、フトニーのユーチューブの動画チャンネルを見ると、先ほどのシーンの動画がアップロードされていた。どうやら、フトニーのプライベートジェットの自動動画撮影機能で撮った動画をアップしていたらしい。2時間前にアップロードしたばかりの動画の再生数は、既に1000万回を超えていた。コメント数も23千を超えていて、凄まじい。コメントでもこの出来事の凄さがよく伝わってきた:
・「なにこのありえない映像 wwwww
・「開きっぱのプライベートジェットって www しかも何でそこに人が空から落ちてくるの wwwwww
・「この奇跡の動画を見て、ニートを止めて働く気持ちが湧いてきました! 僕も明日からユーチューバーになります!」
・「これ、確かに広告だけでやばいぐらい稼げるんじゃない www ってか、こんな動画一般人の俺には絶対無理ゲーだけど wwwww
・「俺も車だけど、ちょっとドア壊してくるわ www
・「儲かってすいませんm(__)m

 最後のコメントはフトニー本人のコメだったが、確かにこれは儲かるだろう。懸賞運が奇跡的なだけじゃなくて、こういう技術もフトニーは持っているから恐ろしい。こんな大事件でフトニーも友達も事故死するかという場面ですら、これだけのビッグイベントにつなげて、しかも一瞬で大金を稼ぐという…。

 まさに、人間万事塞翁が馬。人生なんて、最後まで何が起きるかわからない。