2015年9月20日日曜日

Day 21 悪質な併殺崩しのスライディングを上手く避ける最新技術と新ルール?-何となく、失敗の匂いがする

 トニーは今日フトニーと、暇つぶしに野球観戦に行くことにした。メジャーリーガーと日本選抜が、極秘で試合を行うという情報をフトニーが手にしたからだ。話によると、ダブルプレーでの併殺を阻止する際に選手がスライディングをして、選手の大怪我につながるのを防ぐための最新技術と新ルールを試すらしい。


 フトニーがトニーを車で迎えに来た。フトニーはメジャーのあるチームのユニフォームらしきTシャツを着ていた。シャツの前面には、「ShineAnts(シャインアンツ」と書かれていた。背番号はドクロ ww (これはいくらなんでもダッセェー…)とトニーは思ったが、なんとか口に出さずに我慢した。我慢できずに言いそうになったが(正確に言えば「ダ」までは言ってしまったが)、その後なんとかくしゃみをしてごまかした。フトニーの帽子についていた、漫画のような馬糞についてはスルーした。
「じゃ、今日も行くぞ!」と気合の入った声でトニーを車内に呼び込んだ。トニーは乗車前に、「ThaiBaht(タイバーツ)」と書かれたユニフォームのシャツに着替えてから乗り込んだ。


 極秘の試合が行われる極秘の球場を探しまわること3時間。想定以上に時間がかかってしまった。球場のスコアボードを見ると、既に12回の表。ランナーは1塁。アメリカの攻撃で、日本が守っていた。外野はものすごい前進守備で、皆2塁ベースの方をチラチラ見ている。レフトだけはライン際を守っていたせいか、かなり遠くにいた。だが、はめていたグローブの外側には、双眼鏡らしきものが組み込まれていた。これも新型ベースボールテクノロジーなのかもしれない。
 球場には応援団などもおらず、マスコミも完全シャットアウト。球場は静寂に包まれて、カキーン、バシッ、ポリポリッ、バキッ!、ズドーン、くっせぇーなどの音しか聞こえない。
 トニーとフトニーがそれをこっそりとグーグルグラスをかけながら見ていると、両軍ベンチの監督やコーチ、さらにオーナーらしき人物らが、ざわざわとし始めた。二人は固唾を呑み、酎ハイを飲みながら見守っていると、打者がセカンドへゴロを打った。1塁ランナーが勢い良く二塁へ走りこむと、「おい、トニー! あれを見ろ!」とフトニーが言った。なんと、普通の二塁ベースの横に、もう一つのセカンドベースが地上から現れた。するとランナーは、そのもう一つのセカンドベースに向かって激しいスライディングをぶちかました。その時ショートは、もう一つのベースから一瞬煙が上がったせいか、口や鼻の周りを抑えながら、通常の二塁ベースを踏んで一塁へ送球しゲッツー。それを見てフトニーが、「なるほどな。これなら併殺殺しのスライディングで選手が怪我をすることもないし、走者も好きなだけ激しいスライディングをできるわけだな」と、固唾と酎ハイを混ぜて飲みながら言った。
 フトニーはグーグルグラスでデータを取りながら、その仕組を解読した。まず、スコアボードに注目。すると、打率、ホームラン数などの他に、「走塁危険率」という項目が新たに加えられていた。どうやら、この走塁危険率が高い走者が塁上に現れると、審判は気分次第で、リモコンの遠隔操作でもう一つのベースを出せるらしい。確かに審判の手を見ると、左手に福沢諭吉を握りしめていた一方で、右手にはリモコンを持っていた。このリモコンでベースを出したり隠したりして、スライディングの怪我を防ぎつつ、走者の激しいスライディング欲求も満たすという、画期的な仕組みだろう。この新しいシステムを見て安心したのか、フトニーの固唾は柔らかくなった。それを見てトニーも安心し、二人は帰ることにした。


 自宅に帰ると、トニーは両親にすべて説明した。メジャーと日本の極秘試験試合をフトニーと見に行ったこと、フトニーがコンビニのエロ本コーナーで興奮し、2時間も滞在したせいで、試合に着いたら既に12回の表だったこと、球場は静寂に包まれていたこと、二塁ベースに、スライディング専用のもう一つのベースが現れて、万事うまくいったことなど。
 それを聞いていたトニーの父さんがトニーに言った、「今CSの高い有料チャンネルで特集してたんだが、そのベースはまだ実戦では使えないらしいぞ」。トニーが「どうして?」と聞くと、トニーの父さんは言った、「そのもう一つのベースは、馬糞でしか作れないんだって」。

0 件のコメント:

コメントを投稿