2015年9月15日火曜日

Day 19 幻のラーメン屋の秘密

 トニーは今日フトニーと、「幻のラーメン」と言われるラーメンを食べに行くことにした。フトニーがフトニーの友達に聞いた情報で、どうやら幻の豚骨と言われるスープが一部の通のみに知れ渡っているらしい。

 フトニーがトニーを車で迎えに来ると、トニーは助手席にどっさりと積んであった幻ではない麺をトランクに移してからシートに座った。「天気のいい日にあの麺を助手席に載せて車内の高温で乾燥させると、幻の麺が出来るかもしれないって聞いてさ」と、フトニーはトニーに不敵な笑みを浮かべて自信を見せた。「あれが麺じゃなくて、子供だったら事件だぜ」とトニーが言うと、「それぐらい車内乾燥麺は、何らかの幻の隠し味につながってるんだろうなぁ~」と、車載テレビの相撲中継を見ながら言った。


 閑静な住宅街を、何かが後方で縦横無尽にガサガサと大きな音を立てながら動く車を2時間ほど走らせて、人里離れたそば屋ではないラーメン屋らしき店に着いた。『ラーメン屋、幻』。「間違いない、ここだろう」とフトニーがトニーに、トランクの乾燥麺を一緒に運ぶように指示し(万が一質が認められれば、常連客用の秘密の割引を受けられるかもしれないという)、トニーと一緒にボロボロと落ちつつあった乾燥麺を、3か月天日干しした鉄製の手袋をはめながら、温度を保ちながら、「アツイアツイ!」と言いながら『ラーメン屋、幻』に入った。

 店内に入ると、地面から天上まで山積みにされた乾燥麺が、麺で『幻』という字を作るように積まれていた。「幻感ハンパねぇ!」とテンションが上りフトニーが思わず声を出すと、幻と書かれたTシャツを着た常連客らしき集団が、親指を天高く上げてラーメンをズルズルと食べた。
 トニーとフトニーは席に座り、メニューを見た。
「味噌ファンでも見逃せない幻の醤油」
「醤油ファンでも見逃せない幻の塩」
「塩ファンでも見逃せない味噌」
「味噌ファンでも見逃せない幻の塩」
「醤油ファンでも見逃せない幻の味噌」
「塩ファンでも見逃せない醤油」
「どのファンでも絶対に見逃せない幻の麺無しスープ無し募金」
 
 さすがに幻のラーメン屋だけあって、メニューからして普通ではない。そのため、トニーとフトニーは、ラーメン屋のオーナーがじっくりと時間をかけてダシを取り、仕込みに時間をかけるように、慎重に時間をかけてメニューを決めた。二人がメニューを決めた頃にはすっかりと他の客もいなくなり、日も暮れていた。
トニーが「俺、味噌」と言い、フトニーが「じゃあ、俺は醤油」とメニューを決めた二人は、それぞれ「幻の醤油」と「幻の塩」をズルズルっと決断を延ばすように麺を口の中に放り込んだ。
 
 店を出た後、「いやぁ~、すごい味だったな。ちょっと高かったけど」と二人は口をそろえて言った。二人で9000円。幻のラーメンだけあって高かったが、幸運な生活を送る二人にとって、決して高くはなかった。二人は満足気に、トランクが空になって軽くなった車に乗り込み、帰ることした。


 トニーは家に帰ると、今日の出来事を両親にすべて説明した。幻のラーメン屋に行ったこと、フトニーがごっそりと乾燥麺を車に積んで、幻の麺を作ろうとしていたこと、そして、幻のラーメンを作るのと同じかそれ以上に複雑なメニューなど。
 その話をした後、トニーの父さんがトニーに言った、「今テレビでそのラーメン店のオーナー捕まったぞ。募金詐欺だかで」。
 驚いたトニーは慌てて領収書を確認した。
・味噌ファンでも見逃せない幻の醤油 1500
・醤油ファンでも見逃せない幻の塩 1500
・どのファンでも絶対に見逃せない幻の麺無しスープ無し募金 7000
・幻の乾燥麺 -1000

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