2015年9月9日水曜日

Day 17 釣り竿一直線

 トニーは今日フトニーと、釣りをすることにした。フトニーがトニーの家に車で迎えに来た。
 トニーの家を出発して5分、トニーが車内でフトニーに、「ちょっと止めてもらえる!?」と言い出した。道路に500円玉が落ちているのを見つけた。
 トニーは車から降りて500円硬貨を取りに行くと、「うわぁ~~~~! やべぇ~~~~~!」と急に大きな声を出した。やくざ風のモヒカン男が急にトニーの釣り竿を奪い取り、逃げようとした。その逃走中に、その男が半開きになっていたマンホールに釣り竿を落としてしまった。フトニーは車から、そのシーンをはっきりと見ていた。しかも、片手にはスマホを持っていて、その男が釣り竿を落とす場面、そしてトニーのリアクションを動画撮影していた。
 トニーが車に戻ると、フトニーが気味の悪い笑みを浮かべて、「これは相当の再生数を稼げそうだな」と言った。また、ユーチューブにこの動画をアップするという。
 トニーが車の中で気を落としていると、「まっ、そう落ち込むなよ!」とフトニーがトニーに、フトニー愛用の釣り竿を渡した。「今日はこの釣り竿を一緒に使おうぜ!」と明るくトニーに言ったが、トニーは4つの手が一本の釣り竿を持っている場面を冷静に想像して、「釣りしづらそうだな…」と思わずネガティブな言葉を漏らした。そうは言いながらもフトニーの高級な釣り竿をいじっていると、「痛ってぇ~! おいっす!」とトニーが声を出した。釣り針と手に持っていた方位磁石の針が絡まり、方位磁石を取り出そうとして方位磁石の方位磁針に釣り針が引っかかって、取ろうとして手を怪我したトニーは病院に行き先を変えた。


 20分ぐらい病院を探しまわって、古びた病院を見つけた。
フトニーがトニーに、「あれっ? こんなところに病院なんてあったっけ?」と言うと、手が切れて血が出ていたトニーが、先ほど釣り竿の針と方位磁石の針を付け替えた方位磁石で方向を確認し、「よし、行こう」とフトニーを釣り竿でせかした。
 幸運にも、院内に誰も患者はいなかった。患者どころかナースもいなそうだったが、
「どうぞ」と先生に声をかけられて、トニーは診察室に入った。
「どうしました?」
「自分の釣り竿を893風の男に奪われて、そいつがマンホールに落としてしまって、友達の釣り竿を借りてちょっと遊んでいたら、釣り竿の針と方位磁石の針が絡まって手を切ってしまって…」
「よくありますよね」
トニーは穏やかで優しそうな先生に、事情を説明した。すると続けて先生は、「あのマンホールって、たまに開いている時があるんですよね。気をつけてほしいものです。私も一度大事なカルテを落としてしまって、マンホールの下に潜ったことがあるんですよ」と、トニーの目を見て話した。その話を聞いてトニーは、奪われて落とされた釣り竿を取り戻せるかもしれないと考えて、マンホールの場所に戻ることにした。


 トニーとフトニーがマンホールに戻ると、マンホールは既に固く閉じられていた。トニーは病院の先生に、マンホールの下に行く方法を聞くのを忘れていた。「少しでも可能性があれば挑戦したい」。そんな金メダリストの言葉だったか、10年間司法試験に挑戦した挙句、結局失敗してニートになった人の言葉だったかは忘れたが、それを思い出して、マンホールの下の世界への扉が開く可能性にかけてみたくなり、病院に戻って先生に話を聞いてみることにした。


「あ~、ダメダメ、この先は」
病院があったはずの場所に戻ると、立ち入り禁止と書かれたテープが貼られていた。周りには警察が数人立っていて、先ほどあったはずの病院がなくなっている。「ここって、病院があった場所ですよね?」と、トニーは警官に話を聞いてみた。すると若い警官が、「あ~、ここの先生、マンホールに落ちたカルテを取りに下に行って、地上に戻る時に上から落ちてきた釣り竿に刺さって死んじゃったみたい」

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